良い人間関係を保つ5つの潤滑油 その5

ある時、ショッピングを済ませた50代か60代くらいでしょうか、ご夫婦らしき男女の後ろにたまたまついて出口まで歩くことになりました。

男性は、手ぶら。女性は、2つも買い物袋を持っています。男性は知らん顔してスタスタ歩いていきます。どこか体が悪いわけではなさそうです。女性は、「持っていただける?」と頼む事もなく、黙々と、俯き加減で歩いていきます。二人の間には、相当な距離が。

いつもこんな感じだったら、一体、普段の家庭内はどんなものなのだろうか? 口の中がジャリジャリするような毎日? お互いを包むような暖かで柔らかな気持を抱くことがあるのだろうか。。。と、数分間ですが、余計な想像をしてしまいました(笑)。

たまらなくいやだろうな、そんなだったら。。。

こちらは、30代のカップル。大恋愛の末に結婚。

結婚1年目は、「結婚って、なんでこんなに難しいのだろう。どうして思うように行かないんだろうか。あんなに好きだったのに! 今だって、こんなに好きなのに。。。 一生幸せに暮らせると思ったのに、こんなにお互いの気持が通じないなら、一緒に暮らすのは辛い。。」というのが結婚1年目の感想。

5年後の今、世界中の幸せを集めたみたいに幸せ。

1年目とその後とでは、何が違ったのか。。。

1年目の「辛い」と思ったのは、好きだからこそ、すべての瞬間に100%同じものを感じていたいと願うあまり、自分のすべてを彼の上に重ねようとし、その度に、「違い」があることを感じ、共有しているものがたくさんあるのに、「違い」だけに視点を当てるようになってしまっていたからでした。

それが、視点を変えただけで、逆に、完全に一丸になったのです。

  • それぞれの個性とそれぞれの有り様を尊重する
  • 接触の度合いを最大限に広げ、深める
  • バランスを取ることを二人が一緒に常に考え、その意識をいつも持つ

二人の絆は、切っても切れないほど強いものとなりました。ちょうど、インヤンのバランスのように。

太極図

ちょっと不謹慎かもしれませんが、静かに観察してみてください。例えば、喫茶店とかレストランで、あるいは、職場や学校で、人が話をしている瞬間を。

仲の良い人たちは、お互いの距離が近くありませんか? 表情が優しく、ニコニコし、おたがいを見つめ(惚れ惚れと見つめ合っている人たちもいるでしょうし、そこまで行かなくとも、しばしば視線を合わせているでしょう)、日本だと人目を気にするので、少し遠慮してしまうかもしれませんが、向かい合わせではなく、隣り合わせで座っているかもしれないし、テーブルの下では足が触れ合っているかもしれないし、手を繋いでいるかもしれません。

体のどこかが触れていても不思議ではありません。

逆に、距離の遠い人たち。体が触れている部分は、まったく無し。

多分、表情はもっと硬いでしょうし、視線も、伏し目がちで、合うことを避けがちかもしれません。体全体が硬直しているかもしれません。

見ただけで、壁のない関係か、緊張が走っている関係か、見えてきます。

 

良い人間関係を保つ5つの潤滑油、その5は、身体の触れ合いです。

人間は、他の人間との接触、ぬくもりを必要とします。有袋類を含め、すべてのほ乳類の動物は、親の肌のぬくもり無しに成長することはありません。

肌のぬくもりは、極めて直接的なコネクションで、このコネクションが、子どもの知性や感性を育てる元となります。

目と目を合わせる、手をつなぐ、体のどこかの部分での接触、ハグ(抱擁)、キス、カップルならmaking loveなど、二人の距離の近さを示す身体的なジェスチャーや仕草や行動すべてを含みます。

不思議なことに身体的な距離が近ければ近いほど、気持や感情など心理的な距離も近くなります。心理的な距離が遠くなると、身体的な距離も遠くなります。

(日本では、これをスキンシップという言葉で表現しているかもしれませんが、英語だと誤解を招きそうなので、ここでは、あえて、その言葉を使わず、肌の触れ合いとか、身体的距離の近さという言葉を使うことにします。)

小さな子どものうちは、肌の触れ合いがたくさんあります。特に、赤ちゃん。

あのムチムチの気持のいい肌は、きっと、周りの人々が自然に触りたくなるよう神様から贈られているものなのかもしれません。数々の研究によって、赤ちゃんが得る肌の接触が、脳細胞を刺激し、たくさん肌の接触を得ている赤ちゃんは、脳も心も育っていくこと、逆に、それを受けていない赤ちゃんは、脳が萎縮し、感情も萎縮していくことがわかっています。

たくさん抱っこし、たくさんマッサージし、たくさん頬ずりし、たくさんキスし、いっぱい手を握り、脚を撫で、背中や肩に触れ、たくさんじゃれあい、と赤ちゃんに肌からの刺激を与えることは、とてもとても大事なことです。そして、そこには、様々な言葉かけがあるでしょうから、赤ちゃんがかわいい、赤ちゃんを愛している、という感情が伝わり、赤ちゃんは、自然に自分が愛されていることを感じ、たくさんの愛を返そうとします。

未熟児で生まれ、インキュベーターの中にいる時に、看護婦さんが足をマッサージしたりして、体によく触るのと触らないのとでは、赤ちゃんの泣き方や泣く量が違い、赤ちゃんが如何に接触を欲しているかがよくわかるという研究がイギリスのある病院で行われたそうですが、似たような研究がたくさんあります。

現在のような近代的な生活になる前は、お母さんには大変であっても、おぶい紐で、赤ちゃんが四六時中お母さんのぬくもりを感じることができていました。そして、夜寝る時もおふとんの中で一緒でした。

これは、実は、大変な意味を持っていたのですね、今、考えてみれば。

プリント

現在は、専用のゆりかごやベッドができ、赤ちゃんは、多くの時間、大人との肌の接触無しに大きくなっていきます。だからこそ、余計に、赤ちゃんと一緒にいる時は、できるだけ触れ合うことが大事となってきます。

子どもたちも、ある年代になるまでには、お母さんと手をつないだり、一緒に寝たり、接触が多いのに、日本の場合には、いつの間にか、段々と少なく、やがて、完全になくなっていきます。特に、男の子の場合には。

私が住んでいるオーストラリアでは、中学生になっても高校生になっても、親子の肌の接触がたくさんあります。家庭内でキスやはハグはよく見られることですが、朝学校に送ってもらった生徒が、ありがとう、行ってくるね、という瞬間にお父さんあるいはお母さんにキスをする場面が男の子でもよく見かけられます。大人たちも手をつなぎ、キスし、ハグする場面は日常のことです。文化の違いがよく見えることのひとつです。

興味深い話があります。

10年ほど前のこと、交換留学生たちが数名、日本のある学校でお世話になっていた時に、その学校の生徒たちが外国に出ていく瞬間を目撃した時のことです。

「中には、涙を流していた生徒もいたけれど、みんな、行ってきま〜す、ってただ手を振るだけ。誰もハグしないの。オーストラリアなら、ありえな〜い!! みんなハグして、離れられない。日本人は、本当に不思議な人たち」とびっくりし、「信じられな〜い!!」を連発するのです。

そのくらい、日本人の間には、肌の触れ合いが希薄だと言えましょう。

でも、視線と視線を合わせたり、肌を触れ合うことは、人間の仲を取り持つ、大変、重要な要素です。

夫婦にそれがなくなれば、もう実質上の「夫婦」ではなくなります。家庭内別居とか家庭内離婚とかいう言葉がありますが、肉体的にも気持の上でも、二人の距離は大きくあいてしまっていることでしょう。そうなれば、「家庭」はもう憩いの場所ではなくなります。愛が詰まった楽しい場所ではありません。1日外で仕事をした後に、ウキウキした気分で帰れるところではなくなってしまいます。

そうした気分的な負担が長期に渡れば、肉体にも精神にも及ぼす影響は測り知れなく大きく、体の節々が痛み、内臓が悪くなり、薬付け、医者通い、果ては、寝込むようなことになりかねません。

では、目を合わせるということは、どうでしょうか?

みなさんは、話をする時に、相手の視線をがっちりと取られてみえますか?

 

 

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目は口ほどに物を言うという言葉があるほどに、視線の絡み合いは、肌と肌ではありませんが、身体を使った重要なコミュニケーションの手段です。

誰かの関心を得たかったら、まず、視線がこちらに向けられるようにしますでしょう? 視線と視線が合えば、そこから何らかの気持の交流が始まります。そして、親しくなるにつれ、視線を合わせる数も時間も長くなります。

目のちょっとした動きで、私たちは、多くのことを察知します。良いようにも悪いほうにも。

何かやましいことがあったり、相手に対する思惑があれば、視線を合わせ難くありませんか? 自分の心の内を読み証されるような感じがして。別にやましいことがなくても、考えていることを知られたくなければ、伏し目がちになるでしょう。相手の目の中を覗き込むようにしたら、相手が嫌がるかもしれません。

視線を合わせるということは、とても不思議な行為です。話をしている時に、相手の視線がどこかに飛んでいれば、話を聞いていないように感じられます。さりとて、あまり熱心に見つめられるとドギマギしたり。

良い関係を保つためには、視線を合わせるという行為が、決定的に重要となります。家庭内だけでなく、職場でも同じことです。視線をしっかりと合わせないコミュニケーションは、お互いに意志をしっかりと確認することができず、特に、気持の上でのつながりは無いにも等しくなりましょう。

目を見て話すということは、赤ちゃん時代から始まります。周りの人間が赤ちゃんと視線を合わせて話すことで、赤ちゃんは、自然に相手の人びとと視線を合わせるようになります。この状態を大人になるまで続けていくことが、親子の絆をしっかりとつないでおくひとつの重要な鍵となりましょう。

恋人ができた時。視線を合わせて話ができることは、これまた、二人の仲を上手に保つ大事な要素となります。視線が上手に合わなかったら、この人とは長続きしないかもしれない、という判断基準になるほどに。。。

夫婦はもちろん、親子でも、小さな頃からテレビを見る時に同じ長椅子にくっついて座ったり、同じテーブルで一緒に食事をしながらその日のことをいろいろと話したりしたり、スポーツで一緒に汗を流したり、お風呂で背中を流し合ったり、子どもにお父さんやお母さんの肩もみをしてもらったり、肩や背中を撫でて玄関から送り出したり、女の子ならお母さんが髪を梳いてやったり、おけいこなどの送り迎えの車の中で隣りにいる時に手を握ったり、勉強している子どもの後ろ姿や何かに悩んでいる背中が見えたら、そっと肩や腕に手を置いたり、様々な場面で、お互いに肌を接触の機会を持ち、抱きしめ合うことで、できるだけ近い距離を保ち、「大好きだ」「愛している」という気持を持ち続け、伝え続けることができます。

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キスやハグをする習慣を小さな頃から付けていれば、最高。さらに、”I love you”に相当する言葉(日本語で愛しているよ、というのは、少しこそばゆい感じがする方々もおありでしょうが、二人の間で通じる愛の言葉の掛け合い)を毎日いろいろな場所で言うことができれば、とても良い関係を持続できるでしょう。

でも、ここで注意すべきことがあるのですよね。。。異性間の触れ合いです。家庭内では子どもたちに対して、家庭の外なら会社などでの異性に対して。いくら、肌の触れ合いが大事だと言っても、嫌がる相手にやたらに触れたり、性的な場所に触れようとすれば、セクハラの部類になり、大きな精神的負担を負わせてしまうことになります。どこまでが適宜で、どこまでが適宜でないということは、触れる人の良識的な判断に任せられるわけです。

 

その点、夫婦であれば、二人だけにしかない肌の触れ合いという特権があります。その特権を多いに活用すべきですよね。

あるご夫婦、長い間、肌の接触がなく、ベッドの中でもソッポを向き、段々と精神的にも距離が離れてきていました。そのために、奥さんは、要らぬ心配をするようになりました。別の女性がいるのではないか。自分はもう愛されていないのではないか。苛立ちは、子どもにも向けられ、ご主人から求められることを待っているにも関わらず、実際に求められると、思う通りになんてさせるやるものかと拒否してしまう。だから、ますます上手に行かない。

そんなある日、決心しました。意地を捨て、パートナーへの見栄を捨て、新婚当時の自分に戻ってみることを試みたのです。毎日のもやもやを清算して、あの頃の幸せと喜びをもう一度感じたい、と。子どもたちを友人に一晩預け、ご主人が好きなイタリア料理のレストランに行き、彼の目を覗き込みながら会話を楽しみ、そして、おいしいワインでほろ酔い気分。さて家に戻ろうかという時に、サプライズで予約していたすてきなホテルに。

翌日から、あのわけのわからない居心地の悪い空間は一体なんだったのだろうと思うほどに、家の中の空気は一変。

常に視線が合うようになり、子どもも含めて笑いが増え、肌の接触が増え、キスが飛んでくるようになり、お料理をしている時に旦那さんの手が腰に回ってきたり、一緒にお鍋を覗き込んだり、長い間味わったことのないときめきに満たされるようになりました。

そして、あの晩、「お互い、毎日、何か褒めようね」という約束を毎日実行。子どもたちにも対しても褒め言葉と優しい言葉が増え、子どもたちがお母さんの言う事を以前よりも素直に聞くようになったということ。

肌の触れ合い効果は、抜群だったいうことですね(笑) なんとすてきなことでしょう!

 

ある時、たまたまドライブ中にラジオ番組で聞いた話なのですが、その通りだと思えることがあったので、ご紹介しましょう。

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良い関係を保っているカップルの好感度は、

・ 50%が身体的魅力 (大抵の人たちは、最初の出会いの感触で、その後付き合うかどうかを決めるでしょうから、容貌、ファッション、表情、仕草、肌の触れ合いの感触などは、とても大事な要素となるわけです)

・ 20%が二人が共通の関心事を持っていること

・ 20%が価値観を共有できること(これが違うと、様々なところで対立が起こり、関係にヒビが入ります)

以上のことが揃っていれば、二人が関係を上手に維持する努力はわずか(10%、そのうちのほとんどはそうしようという意識と気持)で済むけれど、身体的魅力が減少すれば、他の面で補うようになり、他の面も減少すればするほど、努力の部分が増え、気持の上での負担、マイナス思考が多くなっていくというものです。

言い得て妙だと思うのですが、みな様は、如何思われますか?

さて、好感を生み出すためのおしゃれ。「どうこれ、似合う?」「こっちのネクタイのほうがいいかな。。」「この色は、あなたの好み?」などなど、尋ねてみるのも効果的ではないでしょうか。

おしゃれを楽しみながら、相手方と視線を合わせ、肌に触れ合うことを今日から、さらにもっと増やしていきましょう。絶望的と思える関係であっても、それを増やすことが、夫婦の、そして、親子の改善への道となり、やがて、楽しみ、喜び、幸せに満ちる時間にと変わっていきましょう。

同じ屋根の下で暮らすのであれば、心に弾みがあり、お互い一緒にいられることを感謝できる関係でありたいですね。

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投稿者: 原田房枝

An author, life coach, counsellor, and co-founding director of ICET (Inter-Cultural Education Today), a specialised program for Japanese students studying in Australia. Over twenty years she has worked with hundreds of students and parents, establishing a unique education program focused on language learning, as well as cultural understanding and personal development. Her coaching seminars guide families in how to strengthen their relationships and build happiness, especially with teenagers. She has lived in Sydney since 1980.

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