良い人間関係を保つ5つの潤滑油 その4

あるご夫婦。

奥様は84歳、ご主人は90歳。お二人ともとてもお元気。そして、とても仲良し。おつむも非常にしっかりしてみえます。あの時、あの場所での「思い出」が実に鮮明。時々、写真を見てその時のことを語ったり、お知り合いの方々にお手紙を書かれたり、電話をされたりして、思い出を語り続けることで、その時の喜怒哀楽が蘇り、常に心に鮮明に残るのだそうです。

お二人の共通の趣味は、旅行。過去40年、年に2回。もう日本じゅうを網羅。奥様にとっては、日本はお里帰り。ご主人にとっては外国旅行。お祭りを追ったり、「奥の細道」を辿ったり、お遍路さんの道をいくかに分けて歩いたり、温泉めぐりをしたりと、テーマは様々。旅行の期間は10日から2週間。後の残りは、旅行後の記録や写真の整理に楽しい時間を一緒に過ごし、ワクワクとしながら、次の旅行の計画を。

 

あるお父さんと息子さん。

お二人も、とても忙しい生活をしてみえるので、同じ空間に棲んでみえても、すれ違いばかり。もともと息子さんはお父さんが期待されるのと違う道に行き、それが父子の間に、ヒビを入れていた。奥様が亡くなられ、二人だけになってしまっても、それが何年も続き、関係は薄くなるばかり。徐徐に、会うことを避けようとしているかのように、逢う回数はますますと少なくなり、交わす言葉も数語。食事も、お手伝いさんが作ったものを違う時間にそれぞれに違う時間に取り出し、独りでするだけ。息子さんの結婚の話もできない。

こんな生活はもうしたくないと思ったお父さん。思い立って、息子さんに専門のゴルファーから受けられるレッスンの回数券を贈ることにしました。かつて、彼が中高生の頃は、時々、一緒に回ったことがあり、その時の心地良い快感を再び呼び寄せたいと思ったのです。

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練習しているのかどうかわからないまま数ヶ月が経ちました。

ある日、「お父さん、次の週末に一緒にコースを回りませんか。良かったら、僕が予約しておきます」という誘いが息子さんからありました。

「おー、そうか」とできるだけ感情を出さずに答えたものの、涙が出るほどに嬉しかったそうです。

それからは、父子関係の復活はトントン拍子。

ゴルフの後のビール。家での夕食は一緒。話すことがないと思っていたのに、一旦会話を始めたら、様々な話題が。外で一緒に食事をすることも増えた。ゴルフの腕をあげるために、両方が場所や時間は違っても運動するようになった。共通の話題は、どんどん増えていく。息子さんが期待とは違う道を歩かれていることに対しても、もう何のわだかまりもなく、彼の成功を願うだけ。

かつてのあの寂しさ、わびしさは、一体何だったのだろう。。。こんなに幸せな時間を一緒に持てるのに。

息子さんの将来の話題もお二人の会話の中にのぼるようになってきました。

平和な時間は、過去の困難も、難しさも、受け入れられないという感情も、すべて流し落とし、いつの間にか、互いへの感謝に満ちるようになっていました。

 

あるお母さんと娘さん。

何年もお互いに疎外感を感じたまま。お母さんは、娘さんの生き方を認められない。結婚相手も気に入らない。息子さんたちのお嫁さんはかわいいし、孫もかわいいのに、娘さんの子どもには愛情を感じない。娘さんから近づくためのアプローチがあっても、許せないという気持が先行し、どうしても冷たくなってしまう。このままではいけないと思っても、気持をポジティブなものに入れ替えることができない。「あんな勝手な娘、どうにでもなればいい」と、離れて棲んでいることをいいことに、最低限の連絡さえも滅多に取らない。だから、お互い、どういう状況にあるのかも皆目わかっていない。他の人々を介して、わかるようなもの。

ある時、娘さんから、「。。。の料理、作ったことあったよね。覚えている? 作り方、教えて!」というメールがあり、お母さんは、大至急材料と作り方を確認して送信。あとで、その時、娘に返信したい一心だった自分の必死さに苦笑。

本当は、娘さんとの交流に飢えていたのです。でも、許せないという気持にブロックされ、愛は何年も放出されないまま。それが、過去の幸せだった時間を思い出すメール1本で堰が切られたのです。

それをきっかけとして、二人ともお料理やスパイスに深い関心を持っていることに気付き、それからは、料理を介して、それまでゼロだった通信量が一気に跳ね上がり、それにつれて、心にかぶさっていたふたも徐徐に外され、料理以外のことにも、話題が広がるようになりました。

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将来、二人で、インターネットを使ってハーブやスパイスを活かした料理を普及させるべく、お互い熱心に世界の料理を研究し、調理を楽しみ、メニュー作成に従事しています。あれほどに疎遠だった母娘だったのが、今は、すばらしい仲間。そして、将来のビジネスパートナー。

そして、不思議不思議、お孫さんもどうしようもなく、かわいく感じられるようになったのです。

 

あるご夫婦。

定年を目の前にして、奥さんは、離婚を考えていました。

ご主人は、仕事のことしか頭にない。家庭のことも、子育てもすべて奥さん任せ。会話もない。子どもが大学に行くようになり、部屋が空いたので、寝室も別。同じ趣味はない。家の中で会うことが鬱陶しいので、朝ご飯は、義務的に作るけれど、テーブルに出して、そこには留まらない。行ってらっしゃいと声をかける気にもならない。

何年も、その日が来ることを待って、ひたする耐えていました。

ある日、ご主人が、「定年になったら、ようやく、自分の時間が持てるようになる。何しようか。今まで、きみにも苦労ばかりかけてきたけど、この家売って、田舎に引っ越して、もっとのびやかな生活しないか?」

寝耳に水とはこのこと。退職金を折半して離婚しようと思っていたのに。。。

会話の無かった夫婦に、突然降って湧いたこの話。それからというもの、夫婦の会話は、将来設計の話で持ち切り。早速と自転車を購入して、週末には、サイクリングまでするようになり、それまでの惰性でまったく刺激のない生活から、一挙に、夢やダイナミックな動きやエネルギーに満ちた生活となりました。

「苦労かけたね」という言葉で、奥さんの長年の恨み辛みは、雲散霧消。

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さて、良い人間関係を維持するための潤滑油その4は、共通に楽しめることを持っていることです。

  • 一緒に過ごす時間(何をしていてもオーケー。一緒の時間を過ごすことに意味あり)
  • 趣味や関心
  • お互いが知っている友達
  • 価値観の共有
  • 夢の共有(一緒に果たせる夢なら、共有するものは大。同じ夢でなくても、互いに支援できれば連帯感を強めることができる)

共有できる目的があり、共通に向かう目標があるところには、どのような関係においても、強い連携と連帯感が発生します。ひとつのチームとして、効果的な機能を果たします。

それが、夫婦、親子、恋人同士、家族であれば、なおさらのことです。良い絆で結ばれている家族は、その全員が、幸せという人生の最高のギフトを手に入れることができます。

その一番の基本となっているのは、「会話」です。

オーストラリアの漫画家、マイケル・ルーイッグの作品にとても示唆に富んだものがあります。話すことは、こんなにもすてきな効能があるのに、それを避けてしまって、話すことを忘れていませんか?という絵です。

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お互い向き合って話すことが持っている力:

  • 問題解決
  • 信じられないような治療効果
  • 希望の象徴
  • 完璧なテクノロジー
  • しあわせの秘訣
  • 奇跡の場面

最初にご紹介した3家族の例は、ルーイッグの知恵が現実に起こった例です。

今まずい関係に困って見える方、こんな関係よくなるはずがないと思って見える方、その方と共通に持てるものを探してみてください。そして、たくさんの会話を持ってみてください。

必ず、奇跡的な何かが起こります。

私は、大学時代に初めていじめに会いました。長野県という田舎出身であること、クラブ(チャーチ・クワイアー)の先輩男性にかわいがられたこと(笑)、オルガンを弾くのでクワイアーの指揮者であるドイツ人の神父様にもとてもかわいがっていただいこと、将来オペラ歌手になりたいという先輩がすぐにピアノ伴奏を申し込んでみえ、それがとても楽しかったことなどが原因だったのかもしれません。相手方は、美声で有名、中等部時代からとても幅を利かせていた人。

人生初のいじめ。さて、どうしたものか。。。 相談できる人も周りにはいない。今のようにラインで簡単に親に連絡できるわけでもない。仮にそのような便利がものがあったとしても、15歳で高校に通うために下宿生活を始めるにあたって、母から、「あなたが社会で必要とすることは全部教えてあげていると思います。あとは、自分でしっかりと考えて、自分の思うように、好きなように、生きていきなさい」と言われていた手前、今更、泣きつくわけにもいかない。

この人が望んでいることは何なのだろうか。。。 この人の美声が光るようにすればいいんだ。そう思いついた時、解決の道が見えてきました。彼女に恐る恐る、オペラのアリアを一緒にやってみない、と申し込んだのです。早速と一緒にすることになりました。

そして、私たちは、ベストフレンドになったのです。

ところで、彼女には、私をいじめている意識などサラサラなかったのです。ただ、私が相手の力強いパーソナリティに圧倒されてしまい、彼女の視野に入れず、全く相手にしてもらえないことを無視されていると感じ、それをいじめだと思っただけのことだったのです。

絶望的と思われる瞬間においても、共通に楽しめることがあったら、深い絆に発展していきます。そして、共通に楽しめるものがあればあるほど、幸せの度合いは広がり深まっていきます。

 

 

投稿者: 原田房枝

An author, life coach, counsellor, and co-founding director of ICET (Inter-Cultural Education Today), a specialised program for Japanese students studying in Australia. Over twenty years she has worked with hundreds of students and parents, establishing a unique education program focused on language learning, as well as cultural understanding and personal development. Her coaching seminars guide families in how to strengthen their relationships and build happiness, especially with teenagers. She has lived in Sydney since 1980.

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